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多汗症(原発性局所多汗症)について
・「手のひらがいつも汗で濡れていて、書類やスマートフォンが濡れてしまう」、「わきの汗じみが気になって服の色を選んでしまう」、「足の裏の汗でサンダルが滑る」、このようなお悩みは、単なる体質や気の持ち方の問題ではなく、「原発性局所多汗症」という治療の対象となる病気であることがあります。
・日本人では手のひらやわきの多汗症がそれぞれ人口の5%程度にみられると報告されており、決して珍しい病気ではありません。一方で、「相談してもしかたがない」と考えて、受診されない方が多いことも知られています。
・当院では、日本皮膚科学会「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版」に沿って、症状の程度と生活への支障を伺った上で、治療方針をご相談しています。
・以下によく頂くご質問をまとめました。患者様に必要なところ、気になるところをご覧頂けたら幸いです。
なお、本ページに記載している内容は疾患に関する一般的な情報であり、必ずしも全ての患者さまに当てはまるものではありません。症状の表れ方や適切な治療法には、個人差があります。実際の診断・治療にあたっては必ず医師の診察を受けて頂き、医師と患者さまとの十分な話し合い・合意のもとで治療方針を決定いたします。
医療法人潤皮ふ科 院長 原田 潤

多汗症の全体像
Q1. 多汗症とはどのような病気ですか?
・多汗症は、体温を調節するために必要な量を超えて汗が出てしまう状態をいいます。全身の汗が増える「全身性多汗症」と、手のひら・足の裏・わき・顔(額)など体の一部に限って汗が増える「局所多汗症」に分けられます。
・このうち、他の病気や薬の影響がないにもかかわらず、思春期前後から手のひら・足の裏・わきなどに左右対称の汗が続くものを「原発性局所多汗症」と呼びます。
・汗の量そのものが命に関わることはありませんが、仕事・学業・対人関係など日常生活への影響が大きく、治療の対象となります。
Q2. 汗が多いのは体質ですか?病院に行くべきでしょうか?
・「昔から汗をよくかくから」「体質だから仕方がない」と考えて受診されない方が多いのですが、日常生活に支障を感じているのであれば、それは相談していただいてよい症状です。
・原発性局所多汗症には診断の基準があり、症状の重さに応じた治療法が確立しています。
・紙が濡れて字が書けない、握手や手をつなぐことを避けてしまう、汗じみで服の色や素材を制限している、電子機器がうまく操作できない―こうしたことが日常的に起きている場合は、一度ご相談ください。
・「汗の量が客観的にどのくらいか」だけでなく、「生活にどれだけ困っているか」を重視して治療を検討します。
Q3. どのくらいの人が多汗症で悩んでいますか?
・日本で行われた調査では、手のひらの多汗症、わきの多汗症がそれぞれ人口の約5%程度にみられると報告されています。
・多くは10代までに発症し、家族に同じ症状の方がいることも少なくありません。一方で、医療機関を受診している方はその一部にとどまるとされています。
Q4. 他の病気や薬が原因で汗が増えることもありますか?
・汗が増えることがあります。他の病気や薬の影響で汗が増えている状態を「続発性多汗症」といい、原発性局所多汗症とは治療の考え方が異なります。
・原因としては、甲状腺機能亢進症などの内分泌の病気、感染症、神経の病気、更年期、一部の薬の副作用などが挙げられます。
・そのため当院では、はじめに問診や採血検査を行い、続発性多汗症のスクリーニングを行っています。
Q5. 多汗症はどのように診断するのですか?
・原発性局所多汗症は、問診と診察で診断します。日本皮膚科学会のガイドラインでは、明らかな原因がないまま過剰な発汗が6か月以上続いており、かつ次の6項目のうち2項目以上を満たす場合に、原発性局所多汗症と診断するとされています。
①最初に症状が出たのが25歳以下である。
②左右対称に汗が出る。
③睡眠中は汗が止まっている。
④週1回以上、多汗のエピソードがある。
⑤家族に同じ症状の人がいる。
⑥それらによって日常生活に支障が出ている。
Q6. 多汗症の重症度はどのように判定しますか?
・多汗症の治療方針を決めるときは、汗の量だけでなく生活への支障の程度を重視します。
・国際的に用いられているHDSS(多汗症疾患重症度スケール)では、ご自身の感じ方を次の4段階で選んでいただきます。
1. 汗は全く気にならず、日常生活に支障がない。
2. 汗は我慢できるが、ときどき日常生活に支障がある。
3. 汗はほとんど我慢できず、しばしば日常生活に支障がある。
4. 汗は我慢できず、常に日常生活に支障がある。
・このうち3または4を「重症」の目安とし、保険診療でのボツリヌス毒素注射などの適応を判断する際にも用いられます。
Q7. 治療にはどのような方法がありますか?
・日本皮膚科学会のガイドラインでは、汗の出る部位(手のひら・足の裏、両脇、顔面)ごとに、効果と安全性の根拠にもとづいた治療の進め方が示されています。
・基本的には、負担の少ない外用治療から始め、効果が不十分な場合に次の段階へ進みます。個々の項目については、後の設問で説明しておりますので、そちらをご参照ください。
①手のひら・足の裏…塩化アルミニウム外用薬、水道水を用いたイオントフォレーシス療法が第一段階です。効果が不十分な場合にボツリヌス毒素注射などを検討します。
②両脇…外用の抗コリン薬や塩化アルミニウム外用薬から始め、重度の場合はボツリヌス毒素注射を検討します。
③顔面…塩化アルミニウム外用薬などの外用治療が中心となります。
・いずれの部位でも、汗が完全にゼロになることを目指すのではなく、「生活の支障が減る状態」を目標に、治療を続けやすい方法を一緒に選んでいきます。
Q8. 多汗症の塗り薬にはどのようなものがありますか?
・当院では、外用抗コリン薬、塩化アルミニウム外用薬、その他の外用薬があり、症状や年齢、部位に応じて処方します。
①外用抗コリン薬
①-1、エクロックゲル®(9歳以上)、ラピフォートワイプ(12歳以上)…両脇の多汗症に対して、健康保険で使える塗り薬です。汗を出す指令を伝える神経の働きを抑えるもので、1日1回両脇に使用します。
①-2、アポハイドローション®(12歳以上)…手のひらの多汗症に対して、健康保険で使える塗り薬です。上記と同じく汗を出す指令を伝える神経の働きを抑えるもので、1日1回手のひらに使用します。
・外用抗コリン薬は目に入ると散瞳を起こすことがあるため、使用後の手洗いが重要です。また、口の渇きや排尿しにくさが出ることもあります。なお、緑内障の方や、前立腺の病気で排尿障害のある方は、使用できません。
②塩化アルミニウム外用薬
・多汗症の外用薬で、手のひら・足の裏、両脇、お顔のいずれにも用いることができます。1日1回、汗が出る部位に就寝前に外用します。
・副作用として、刺激感や皮膚の乾燥・かゆみが出ることがあります。現在は保険適用のある製剤がありませんが、当院では院内製剤の20%塩化アルミニウムをご購入頂けます。
③その他の外用薬
・当院では、薬用デオドラントジェルのQUADAYSが購入可能です。
汗腺にフタをして発汗を抑制するクロルヒドロキシアルミニウムと、殺菌作用を持つイソプロピルメチルフェノールが配合されており、多汗症と汗のにおいの両方でお悩みの方に適しています。
Q9. 多汗症のイオントフォレーシスとはどのような治療ですか?
・水道水を張った容器に手のひらや足の裏を浸し、弱い電流を流す治療です。
・手のひら・足の裏の多汗症に対して古くから行われており、ガイドラインでも第一段階の治療として位置づけられています。ただし、デバイスが無いため、当院で行うことはできません。
・副作用は電流によるピリピリ感、皮膚の赤みや乾燥などで、比較的軽いものです。ペースメーカーなどの体内金属がある方、妊娠中の方は行えないことがあります。
Q10. ボツリヌス毒素注射について教えてください。
・汗を出す指令を伝える神経の働きを一時的に抑える注射で、外用治療などで効果が不十分な場合に検討します。
・重度の原発性腋窩多汗症では、健康保険が適用されます(手のひら・足の裏への注射は保険適用外です)。
・ただし、当院ではボツリヌス毒素を採用していないため、行うことができません。
・効果は数日から2週間ほどで現れ、およそ4〜9か月持続するとされ、効果が切れたら再注射を行います。
・副作用として注射時の痛み、注射部位の反応、まれに手のひらへの注射では手指の力が入りにくくなることがあります。
・妊娠中・授乳中の方、一部の神経・筋の病気のある方は受けられません。
Q11. 飲み薬や手術という選択肢もあるのでしょうか?
①飲み薬について
・汗を抑える飲み薬(プロバンサイン)は、複数の部位に汗が多い場合や外用治療で不十分な場合に用いられることがあります。
・全身に作用するため、口の渇き、目のかすみ、便秘、排尿しにくさなどが出やすく、緑内障や排尿障害のある方には使用できません。
・そのほかに、防已黄耆湯などの多汗症を抑える漢方薬を併用することもあります。
②手術について
・手術(胸腔鏡下交感神経遮断術)は、手のひらの重症例で、保存的な治療では効果が得られず、患者さんご本人の強い希望がある場合に検討される最終手段です。
・効果は高い一方で、手術した部位以外の汗が増える「代償性発汗」が生じることがあり、これは元に戻すことができません。
・慎重な検討が必要なため、適応があると考えられる場合は専門施設をご紹介します。
Q12. 子どもでも治療は受けられますか?
・もちろん大丈夫です。多汗症は10代までに発症することが多く、お子さんでもご相談いただけます。保険適応の薬も最近増えてきたため、ぜひ一度ご相談ください。
・学校生活での困りごと(授業でノートが濡れる、体育や部活で困るなど)を含めてお話をうかがい、負担の少ない方法から検討します。
・お悩みの内容や部位によって、適した治療は異なります。「これくらいで受診してもよいのだろうか」と迷われる場合も、どうぞ遠慮なくご相談ください。
※本ページは、日本皮膚科学会「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版(2023年12月一部改訂)」を参考に作成しています。なお、個々の診断・治療方針は診察のうえ決定させて頂きます。 医療法人潤皮ふ科 院長 原田 潤 拝



